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新潟地方裁判所長岡支部 昭和43年(ワ)122号 判決

原告

恩田恵子

ほか一名

被告

平野産業株式会社

ほか二名

主文

被告等は連帯して、原告恩田恵子に対し金一五三万七七二三円、原告恩田酒造株式会社に対し金二二万七〇円及び右各金員に対する昭和四三年六月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告恩田恵子のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

一、当事者の求める裁判

原告等

被告等は連帯して、原告恩田恵子に対し金二〇三万七七二三円、原告恩田酒造株式会社に対し金二二万七〇円及び右各金員に対する昭和四三年六月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

被告等

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、請求の原因

(一)  原告恩川恵子(以下原告恵子という)は、酒類の製造販売を営む原告恩田酒造株式会社(以下原告会社という)に勤務し、その事務並に自動車運転に従事していた者であり、被告平野藤業株式会社(以下被告会社という)及び同池田行雄は、共同で、被告塩田政勝を使用し、かつ登録番号新一れ四〇六〇号の普通貨物自動車(以下本件自動車という)を、自己のため運行の用に供していた者である。

(二)  被告塩田は、昭和四二年一一月一三日午後五時二〇分頃、右貨物自動車を運転し、新潟県長岡市高見町三七六七番地先の国道を、見附市方面から下々条町方面に向い時速約四〇粁で進行中、進路前方に一時停止中の自動車が連らなつていたのであるから、自らも徐行又は一時停止するなどして事故を防止すべき注意義務があるのに、漫然とそのまま運転を継続した不注意により、訴外大関常夫運転の普通貨物自動車に自車の前部を追突させ、その衝撃で同車を前進させ、因つてその前に停止していた原告恵子の運転する原告会社の普通乗用自動車(新五な一二五九)に追突させるという事故(以下本件事故という)を惹起した。

(三)  原告恩田恵子の損害

右本件事故により、原告恵子は、いわゆるむち打ち症等の傷害を受け、直ちに長岡市内の神谷病院で応急手当を受けた後、医師の指示に従い自宅安静をしていたが、右病状が思わしくないため、同年同月二〇日同市内の中央綜合病院に入院し治療を受け、同年一二月二日一応退院し、その後も同病院に通院し治療を受けて来たが、なお未だ完治しない。そのため左の二〇三万七七二三円の損害を蒙つた。

(1)  神谷病院での応急手当、薬代等 二八四三円

(2)  中央綜合病院での入院治療、薬代等 二万二八〇円

(3)  むち打ち症用コルセツト代 六二〇〇円

(4)  入院期間一三日で、一日金六〇〇円の割合による附添人支給費用 七八〇〇円

(5)  神谷病院から自宅までの交通費 六〇〇円

(6)  慰藉料 二〇〇万円

原告恵子は本件事故によるむち打ち症がなお完治しないため、従前の勤務に堪えられないばかりか、昭和一七年三月五日生の未婚女姓として、現在は勿論将来も正常な家庭生活を営み得ない虞れがある等、多大の精神的・身体的な苦痛や不自由を受けている。

(四)  原告恩田酒造株式会社の損害

(1)  破損自動車修理代 三万八〇七〇円

(2)  休業補償費 一八万二〇〇〇円

本件事故は、原告恵子が会社の業務に従事中の事故であるから、同人に対し、昭和四二年一一月一三日から同四三年五月三一日までの六ケ月半の休職中、一ケ月金二万八〇〇〇円の割合による従前どおりの支給々料を支払わざるを得なかつたことによる損害。

(五)  被告等の責任

ところで本件事故は、被告塩田の一方的な過失に基くものであるから、同人は直接の加害者として、また被告会社及び被告池田は、原告恵子の損害及び原告会社の(2)の損害については、共同で、自己のために前記自動車を運行の用に供していた者として、原告会社の(1)の損害については被告塩田の使用者として、それぞれ原告等に対し連帯して損害賠償すべき義務がある。

(六)  よつて、被告等が連帯して、原告恵子に対し二〇三万七七二三円、原告会社に対し二二万七〇円及び右各金員に対する弁済期後である昭和四三年六月一六日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、請求原因に対する答弁

請求原因一項中原告恵子が自動車運転者であること、被告池田が被告塩田を使用し、原告主張の本件自動車を自己のため運行の用に供していたことは認めるが、その余は争う。同二項の事実は認める。同三及び四項中原告恵子が神谷病院で応急手当を受けたことは認めるが、その余は争う。同五項中、右のように被告池田が被告塩田を使用しかつ本件自動車を自己のため運行の用に供していたこと、被告塩田が直接の加害者であることは認めるが、その余は争う。

四、証拠〔略〕

理由

一、請求原因二項の事実及び被告池田が被告塩田の使用者でありかつ本件自動車を自己のため運行の用に供していたものであることは争いない。そうすると、被告塩田は本件事故の直接の行為者として原告等が損害を蒙つたときはその損害を、被告池田はまず本件事故を惹起させた本件自動車の運行供用者としてそれにより原告恵子が身体を害したときはこれに因り生じた損害を、そして更に被告塩田の使用者として原告等のそれ以外の損害を、各賠償すべき責任を連帯して負うことが明らかである。

二、そこで、被告会社が損害賠償責任を負うか否かにつき検討する。

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる(〔証拠略〕中次の認定事実に反する部分は、その余の証言、供述にてらし措信できない)。

(1)  被告会社は、石炭石油等燃料及び関連の機械器具の販売等をする会社であり、その営業に関連して商品の運送をする必要があつたところ、本件事故当時同会社には八台ほどの自動車があつたけれども運搬専用の運転手は一名で、給油所からの配達程度は四か所の給油所に一台あてある自動車で都合のよい者が随時従事していたが、その余のものは被告会社のみで輸送することは困難であつた。

(2)  被告会社と被告池田との関係は、同被告は昭和四一年春頃から被告会社へ貨物自動車持込みでゆき、同車の貨物を専属的に運送していたが、本件事故当時は、被告塩田を含めて四名を使用し給料は被告池田が支払い、貨物自動車一台(本件自動車)を所有してほとんど被告会社の貨物のみを運送し、被告会社の運送能力が前記のようであつたことから、被告会社の運送のほとんどは被告池田にまかせられており同被告で間に合わないようなときに一部日本通運に依頼する程度であつた。そのため同被告の自動車一台で不足のときは被告会社の自動車を一時使用することも認められていた。その運送報酬は一般に貨物の重量当り幾らという取り決めで、被告池田は毎日朝被告会社の倉庫へ出かけその日の運送計画につき被告会社より右倉庫に常駐している被告会社の従業員から指示をうけるほか、被告会社で必要が生じたときは随時右倉庫にいる職員に連絡をとり運送につき被告池田またはその従業員の同塩田にも直接指示をした。そのため、被告会社は右倉庫の二階を被告池田に貸し、同被告はそこを連絡事務所としてそこに自己や被告塩田等従業員を待機させ、夜は被告塩田がそこに宿泊し、被告池田も家族は肩書地の長岡市宮本町に居住していたが自己は右倉庫の向いにアパート(栄荘)を借りて居住していた。右被告会社の倉庫の敷地内には被告会社の自動車のほか被告池田所有の本件自動車も一緒に平素駐車保管されていた。また被告池田が自動車を購入する際は、被告会社名で買受契約をし、被告池田の運送報酬中よりその月賦代金を支払い、それが終了したときは同被告に名義を移すという便宜もはからつていた。本件自動車の荷台側面には「石炭石油平野産業」というような文字が大書してあつた。

(3)  本件事故は、右倉庫にいる被告会社職員の直接の指示にもとづき、被告塩田が本件自動車を運転し長岡市高見町へ被告会社の石炭を入れる「かます」を取りにゆき被告会社に帰る途中に起したものである。

右各事実を総合すれば、被告会社と被告池田とは、被告会社の貨物の輸送に関しいわゆる元請と下請の関係にあり、被告塩田は被告池田の従業員であるが、いわば被告池田は被告会社に専属し、実質的に被告会社の運送部門の一部を担当する程度の関係にあり、被告塩田には被告会社の指揮監督が直接間接的に及んでおり、本件事故はそのような状況の下において惹起されたものというべきである。従つて、被告会社も本件自動車の運行につき、いわゆる支配と利益を有していたというべきであるからその運行供用者として、更にそれでまかないきれないときは民法七一五条の使用者として、本件事故にもとづく損害を被告池田同塩田と連帯して賠償する責任があるというべきである。

三、そこで、原告等が本件事故により蒙つた損害につき検討する。

(一)  原告恵子の損害

(1)  神谷病院での応急手当代、薬代二八四三円

〔証拠略〕により認める。

(2)  中央綜合病院への入院代、薬代二万二八〇円

〔証拠略〕により認める。なお同号証の四ないし一七によれば、更に二〇八〇円の出費をしたことがうかがわれるが、その請求がないので、右限度において認める。

(3)  むち打ち症用コルセツト購入代六二〇〇円

〔証拠略〕により認める。

(4)  入院期間中の附添人費七八〇〇円

〔証拠略〕により認める。

(5)  本件事故当日神谷病院から自宅までの交通費六〇〇円

〔証拠略〕により認める。

(6)  慰藉料一五〇万円

前記一、認定の事実によれば、原告恵子には本件事故発生につき全く過失がないこと、〔証拠略〕によれば、本件事故により原告恵子はいわゆる頸部のむち打ち症にかかり昭和四二年一一月二〇日から同年一二月二日まで入院加療したが、その前の同年九月頃縁談があつてほぼまとまり、翌年五月に結婚式をあげ、男性が南米のエクワドルに招請をうけていたので一緒にゆく予定でいたところ、本件事故によるむち打ち症を理由に右縁談が破談となり原告恵子は強い精神的苦痛をうけたと認められること、〔証拠略〕によれば、原告恵子は本件事故による衝撃で一時気を失つたほどであるが、現在も強い頭重感があり、すぐ疲れ、左上肢に腱反射異常、筋力低下の症状があり長距離の運転が困難な状況で、精神的肉体的苦痛を蒙つていると認められること、以上の事実によれば、少くとも原告恵子の苦痛については前記慰藉料を支払うことを相当とする(その余については理由がないというべきである)。

(二)  原告会社の損害

(1)  自動車破損修理代三万八〇七〇円

〔証拠略〕により認める。

(2)  原告恵子へ支払つた休職中の手当一八万二〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告恵子は原告会社に雇われ、同会社の運転業務に従事中本件事故にあつたので、同人が加療のため出勤できなかつた事故当日から昭和四三年五月末までの六か月半につき、従前の給与月二万八〇〇〇円宛を原告会社で支払つたことが認められ、右は本件事故と相当因果にある損害というべきである。

四、以上の次第で、被告等に対する原告等の請求は、原告恵子の請求については右の限度において理由があるから認容し、その余は理由がないので棄却し、原告会社の請求については全部理由があるので((二)の(1)については民法七一五条、同(2)については自動車損害賠償保証法三条による)認容することとする。

よつて、訴訟費川の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渋川満)

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